ヨガの帰りに何気なく本屋に寄った。
その本屋は昔からある小さな本屋だ。
メガネをかけた店主が
レジでいつも座って本を読んでいて
店内には『長時間の立ち読みお断り』
という貼り紙がしてあり
それでも立ち読みしていたら
ハタキを持った店主が
不機嫌そうに近寄ってくるような。
その本屋は
私が通っていた中学校の近くにあり
中学生だった私もよく
下校途中に立ち寄ったものだった。
この本屋の何よりの特徴は
とても小さな本屋なのに
みすず書房のハードカバーが多い。
そしてエロ本やエロ漫画がない。
店主のポリシーなんだろう。
ちなみに、みすず書房とは
哲学とか心理学系の本を
たくさん出している出版社だ。
自分はどうしてこんななのだ?
自分は一体、何に当てはまるのだ?
という責めばかりに囚われ飲まれて
その答えを探して生きていたその頃、
小難しくてよくわからない心理学本を
頑張って買っていた本屋だ。
買っただけで
何かがわかったような気になっていた。
でも実際は何もわからなかった。
もちろん、当時から大好きだった
少女漫画もたくさん買っていた。
その頃にレジにいつもいた
店主のおじさんが
なんと今日も同じように座っていた。
あれから何年だ?25年?四半世紀?
なのに変わらずそこにいた。
よく見ると
ジョンレノンみたいな長めの髪型は
今もそのままだったけど
髪は灰色になり
肌は色素が抜けたように白くなり
その顔のシワは深くなって
昔より痩せていた。
おじさんはおじいさんになっていた。
ふらっと入ってみただけなのに
何も買わずに出て行く事が
何だか申し訳なくなり
というか、自分でも惜しくなり
読みたかった物を二冊買った。
もう小難しい本は買わない。
漫画とハルキ。
どっちも作品自体はもちろん
作者自身も好きだ。
というか最近は、何かを読んでいて
その向こう側にいるであろう
書き手を好きになれないと
どんな文章だって最後まで読めない。
好きか嫌いかは
いい人か嫌な奴か、の話ではない。
なんだっけか。
話を戻そう。
レジにその二冊を持っていくと
店主は静かな低い声で
『ありがとうございます』と言って
頭を下げてから
見事な手さばきで
二冊にカバーをかけてくれた。
その作業が本当に物凄く早かった。
なんだって続けたらプロになれるのだ。
最後にまた店主は
『どうもありがとうございました』
と言って頭を下げながら
本を渡してくれた。
その声が驚くほどに
昔と全く変わっていなくて
私は嬉しいような切ないような
恥ずかしいような
不思議な気持ちになった。
最近の私は
書籍類は某密林でばかり買っていて
本屋で買う事があまりなかったけれど
またこの本屋で買おうと思った。
だって、
二度と戻らないと思っていたこの土地に
私は結局、戻ってきたのだから
今のこの土地に楽しみを見つけたい。
本屋は変わらなくても
もうあの頃の私ではないのだから。